大判例

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福岡高等裁判所 昭和48年(ネ)614号 判決

控訴人・付帯被控訴人(被告)

室好彦

ほか一名

被控訴人・付帯控訴人(原告)

築山忠彦

ほか一名

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人らは、連帯して被控訴人に対し各金一五〇万一、八三三円およびこれに対する昭和四五年一一月一四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人らのその余の請求を棄却する。

本件各付帯控訴を棄却する。

訴訟費用は、付帯控訴費用は被控訴人らの負担とし、その余の費用は第一、二審を通じこれを四分し、その一を被控訴人らの負担とし、その余を控訴人らの負担とする。

この判決は、第二項に限り、かりに執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  控訴人(付帯被控訴人、以下単に控訴人という。)ら原判決中控訴人らの敗訴部分を取り消す。

被控訴人(付帯控訴人、以下単に被控訴人という。)らの請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

本件各付帯控訴を棄却する。

二  被控訴人ら

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

(付帯控訴として)

原判決を次のとおり変更する。

控訴人らは、連帯して、被控訴人らに対し各金三〇〇万五、〇五三円およびこれに対する昭和四五年一一月一四日から完済まで年五分の割合による全員を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人らの負担とする。

第二当事者双方の事実上の主張および証拠関係

次に付加訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

一  被控訴人らの主張

原判決三枚目裏四行目に「四六」とあるのを「四七」と、同五行目から六行目にかけて「一、一七二、二〇〇円」とあるのを「一三四万六、六〇〇円」と、同八行目に「五八六、一〇〇円」とあるのを「六七万三、三〇〇円」と同末行目から同四枚目表一行目にかけて「一七・七一四二」とあるのを「一五・七一四二」と、同行目に「五八六、一〇〇円」とあるのを「六七万三、三〇〇円」と同行目から同二行目にかけて「一、〇三八二九二円」とあるのを「一、〇五八万〇、三七〇円」と改め、同五行目の「取得した」の次に「が、訴外忠之の過失を考慮してその三〇パーセントを減ずると金七四〇万六、二五九円となる。」を加え、同一二行目に、「一、五〇〇、〇〇〇円」とあるのを「一〇〇万円」と、同一三行目に「七五〇、〇〇〇円」とあるのを「五〇万円」と、同裏三行目に「七五〇、〇〇〇円」とあるのを「五〇万円」と改め、同五行目から九行目までを全部削り、同一〇行目の「5」とあるのを「4」と、同末行目に「約したので」とあるのを「約したが」と、同五枚目表一行目に「三〇〇、〇〇〇円である。」とあるのを「二〇万円が相当である。」と、同二行目に「6」とあるのを「5」と、同六行目から七行目にかけて「前三項(四)(五)記載の損害合計四、七四三、七五一円から同項(六)記載の」とあるのを「右(三)の1ないし4記載の損害合計四九〇万三、一二九円から右(三)の5記載の」と、同七行目から八行目にかけて「二、八四五、六七五円」とあるのを「三〇〇万五、〇五三円」と改める。

二  控訴人らの主張

1  原判決五枚目裏一行目の「6」とあるのを「5」と、同七枚目表四行目「(月額五、〇〇〇円ないし一〇、〇〇〇円)」とあるのを「月額金一万五、〇〇〇円」と改め、同五行目の「控除すべきである。」の次に「もし平均賃金を昭和四七年の賃金センサスによるならば、右養育料は総理府統計局調査の昭和四七年の全国勤労世界の実消費支出一ケ月一人当り金二万六、二〇〇円によるべきである。」を加え、同七行目の「七才から」から同一一行目の「四四一、九四九円」までを「右養育料の現価の二分の一あて」と改める。

2  訴外忠之の賃金は昭和四七年の賃金センサスによるべきではなく本件事故時である昭和四五年のそれによるべきである。

3  訴外忠之の逸失利益の中間利息はホフマン式ではなくライプニツツ式により控除すべきである。

4  被控訴人らは訴外忠之の父母であるから、その余命が訴外忠之の就労可能年数より短いことは明らかである。そして、訴外忠之の逸失利益は本来各年毎に受け取るべきものであるから、被控訴人らはその余命期間を限度として訴外忠之の逸失利益を相続しうるに過ぎないので、訴外忠之の逸失利益は被控訴人らの余命期間を限度として算出すべきある。

三  証拠関係〔略〕

理由

一  本件事故の発生、控訴人らの責任、訴外忠之の過失および過失割合についての認定判断は、原判決理由一説示のとおりであるから、これを引用する。

二  そこで、損害について判断する。

(一)  訴外忠之の逸失利益金四九九万九、七四二円

(1)  〔証拠略〕によれば訴外忠之は本件事故当時七歳の健康な男子であつたことが認められ、第一二回生命表によれば七歳の男子の平均余命年数は六二・六八であるから、訴外忠之は六九歳余になるまで生存し、少くとも二〇歳から六〇才に達するまでの四〇年間稼働して収入をあげえたであろうと推認される。

そして、労働省労働統計調査部編昭和四七年賃金センサス第一巻第一表によれば、同年七月当時の全産業男子労働者一人当りの平均月額現金給与額および平均年間賞与その他の特別給与額は、それぞれ金八万八、二〇〇円および金二八万八、二〇〇円であるから、その一ケ年の平均収入は金一三四万六、六〇〇円となり、なお訴外忠之の生活費としては右収入の五割を要するものと考えるのが相当であるので、これを右収入から控除した金六七万三、三〇〇円が同訴外人において二〇歳から六〇歳に達するまでに得たであろう年間純収入となる。そして、右年間純収入四〇年分につきライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して本件事故当時の現価を求めると、次の計算により金六一二万六、九六二円(円未満切捨て、以下同じ。)となる。

673,300×(18.4934-9.3935)=6.126962

(2)  なお、逸失利益の認定については、その他の損害額の認定と同様事故発生時を基準とすべきものではあるが、その損害額認定の統計資料の数値がその後弁論終結までに変更(増額)された場合、一切の証拠資料によりこれが相当程度の蓋然性があるものと認められるときは、変更(増額)された時点以降の逸失利益をこれによつて算定して差支ないものと解する。そして、本件においては、過去数年間の労働者の平均賃金の上昇が極めて高く、訴外忠之の稼働可能年令に達したときの平均賃金が少くとも前記昭和四七年七月当時の平均賃金に増額することは本件事故当時も相当程度の蓋然性があつたものと認められるので、前記のとおり昭和四七年の統計を用いて訴外忠之の逸失利益を算定した。また、本件のように七歳の児童のように長期間にわたる逸失利益であつて相続人の扶養利益喪失的色彩のないものの中間利息の控除はライプニツツ式によるのを相当と認める。

さらに、被控訴人らは訴外忠之の逸失利益を相続したものであるから、その期間を被控訴人らの余命期間に限るのは相当でない。

(3)  ところで、訴外忠之は本件事故当時から二〇歳に達するまでの一三年間(端数切上げ。)にわたりその養育費として相当の支出を要するものと考えられる。右養育費は、訴外忠之の両親である被控訴人らの支出すべきもので、右訴外人が本件事故によりその支出を免れたものとはいえないが、右養育費は訴外忠之が前記収入を得るための稼働能力を取得するための必要経費ともいうべく、また、被控訴人らが訴外忠之の収入相当の逸失利益を相続しながら本来支出すべき養育費の支出を免れることは公平を欠き不当であるから、訴外忠之の逸失利益から右養育費を控除するのが相当である。

そして、右養育費としては、訴外忠之が二〇歳に達するまでの一三年間一ケ月金一万円を要するとみるのが相当でその年額金一二万円を基準にしてライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して本件事故当時の現価を求めると、次の計算により金一一二万七、二二〇円となる。

120000×93935=1127220

したがつて、訴外忠之の逸失利益から養育費を差引いたものは金四九九万九、七四二円となる。

(二)  そして、前記のとおり訴外忠之にも三割相当の過失があつたものであるから、右(一)の金額を過失相殺すると、金三四九万九、八一九円となる。

(三)  訴外忠之の慰藉料金一二〇万円

訴外忠之の慰藉料は、本件の一切の事情に訴外忠之の過失を斟酌すれば、金一二〇万円を相当と認める。

(四)  〔証拠略〕によれば、被控訴人らは訴外忠之の父母として同訴外人の権利義務を相続したことが認められるので、被控訴人らは右(二)、(三)の合計金四六九万九、八一九円の二分の一である金二三四万九、九〇九円あてを相続したことになる。

(五)  被控訴人らの慰藉料各金九〇万円

被控訴人ら固有の慰藉料は本件の一切の事情ことに本件事故当時一人息子を失つたものであることに訴外忠之の過失を斟酌すると各金九〇万円が相当である。

なお、訴外忠之の年令に照し被控訴人らに監護上の過失があつたとは認められない。

(六)  損害の填補

被控訴人らが本件事故による損害について自賠責保険から金一八九万八、〇七六円あての支払を受けたことは、当事者間に争いがないので、被控訴人らの右(四)、(五)から(六)を差引いた損害は金一三五万一、八三三円となる。

(七)  弁護士費用各金一五万円

〔証拠略〕によれば、被控訴人らが弁護士である被控訴代理人に本訴の提起追行を委任し控被訴人ら主張のとおりの費用等を支払う旨約したことが認められるが、本件訴訟の経過、難易度、認容額その他一切の事情を考慮すると、本件の弁護士費用は各金一五万円を相当と認める。

三  そこで、控訴人らは、連帯して被控訴人らに対し各右二の(六)、(七)の合計金一五〇万一、八三三円およびこれに対する本件事故発生の日の翌日である昭和四五年一一月一四日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるので、被控訴人らの本訴請求は右限度で理由があるが、その余の請求は理由がなく棄却すべきである。

したがつて、これと趣旨を異にする原判決を主文のとおり変更し、本件各付帯控訴は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九六条、第九五条、第九二条、第九三条、第八九条を、仮執行の宣言について同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 内田八朔 矢頭直哉 美山和義)

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